公益財団法人テルモ生命科学振興財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

第50回 動物のかたちの進化の謎に魅せられて 理化学研究所 倉谷形態進化研究室 主任研究員 倉谷滋

小さいころから図鑑が大好きで、昆虫やさまざまな動物のかたちに夢中になっていた倉谷先生。京都大学理学部時代は、200年以上前のゲーテや動物学者たちの文献を漁りつつ、比較形態学に没頭する毎日。やがて分子発生学を武器に、脊椎動物のかたちの進化のドラマを次々に明らかにしていく。先生の知的好奇心のルーツと研究プロセスを伺った。

profile

倉谷滋(くらたに・しげる)
1958年大阪府生まれ。77年京都大学理学部入学。87年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。琉球大学医学部解剖学助手、米国ジョージア医科大学、ベイラー医科大学を経て、94年熊本大学医学部附属遺伝発生医学研究施設助教授。98年岡山大学理学部教授。2001年より理化学研究所に。14年より現職。『動物進化形態学』『ゴジラ幻論‐日本産怪獣類の一般と個別の博物誌』『分節幻想‐動物のボディプランの起源をめぐる科学思想史』『形態学‐形づくりにみる動物進化のシナリオ』『かたちの進化の設計図 ゲノムから進化を考える』をはじめ、形と進化に関する著書多数。

昆虫の美しさ、カッコよさに憧れた少年時代

———きっと昆虫少年だったのでしょうね。

ええ。小学校高学年まで大阪豊中市の住宅街で育ちましたが、そのころはまだちょっと歩くと田んぼが広がるような環境で、モンシロチョウやアゲハチョウ、ゴマダラカミキリといった都市近郊相の昆虫がたくさんいて、捕まえては標本にしていました。注射器や保存液、防腐剤、昆虫針などがセットになった昆虫標本セットを使って、見よう見まねで・・・。

———昆虫のどんなところに魅力を感じたのですか?

何といっても、昆虫の美しさとカッコよさ、自然の造形美ですね。子どものころシビレたのはトノサマバッタの色合いと迫力です。後脚の頸節(けいせつ)部分のオレンジ色の美しさ。いかにもトノサマバッタというにふさわしい貫祿があります。昆虫を追いかけていると、やっぱりそのグループの中で一番大きいのがほしくなる。いまでもそうです。だから数年前、西表でタイワンクツワムシのメスを捕まえたときはうれしかった。
美しいといえば日本のタマムシは世界中のタマムシの中でもかなり上位に君臨できるんじゃないかな。ハンミョウも美しい。カミキリムシの中でも、ゴマダラカミキリはどこにでもいる嫌われ者ですけど、もし珍しい虫だったらすごく人気が出るんじゃないかと思いますね。ジックリ観察するとなかなか美しい虫だということがわかります。

———捕まえては、どんな昆虫か調べていた?

昆虫図鑑をながめるのが大好きで、小学館の図鑑を買ってもらったのが、たしかはしかに罹った幼稚園のころでしたか。その後、小学校2年か3年のころだったかな、同じ小学館から『原色昆虫百科図鑑』が出て、それも買ってもらいました。当時まだ若かった動物行動学者の日高敏隆先生が編集にかかわっていたもので、カラー写真を使った初めての図鑑のひとつだったと思います。身に余るすごいものを買ってもらったという記憶があります。

———そのほか、子ども時代に印象に残っていることがありますか。

幼稚園の年長組のころ、映画館で最初か、二番目に見た映画が「モスラ対ゴジラ」。あれを見てブッ飛びましたね。「こんなおもしろいものが世の中にあるのか」って。そのあとテレビで放送された「ウルトラQ」にもびっくりしました。
「モスラ対ゴジラ」では、モスラの造形にはリアリティを欠いたところがあったけど、ゴジラは爬虫類と哺乳類が合わさったものというか、半分哺乳類みたいな存在として描かれていて、本当に数十メートルもの大きさの怪獣が動いているように見えました。子ども心に「たぶん中に人が入っているんだろうな」というのは何となくわかっていたと思いますが、もしもこんな怪獣が現実世界に出てきたら・・と想像がふくらみました。
でも一方で、生物学的リアリズムからすると、ゴジラが火を吐くのはどういうことだろう、恐竜も火を吐いてたんだろうか、これじゃあドラゴンじゃないか、なんて思ったり(笑)

———小さいころから、そんな視点でご覧になっていたんですね!

昔から「形」にはうるさかったんです。テレビやSF映画で怪獣が出てきても、形が悪かったら「これは違う」と文句を言ってたなぁ。
あのころは子ども向けの漫画とか怪獣ドラマが山のように出てきて、イギリスからは「サンダーバード」、アメリカからは「タイムトラベル」とか、そういう夢見るようなSFの世界と博物学的なエンターティンメント性に強く惹かれていましたね。

母に抱かれて

幼稚園のころ

———SF映画で記憶に残っているのは?

スタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」です。1968年の公開当時に友だちのお父さんに連れられて映画館で見ています。小学校3年のときでした。それまで宇宙モノというと、「宇宙エース」とか「スーパージェッター」、「宇宙少年ソラン」、「宇宙家族ロビンソン」などいろいろなアニメやドラマがありましたが、そこに描かれていた宇宙はすごく狭い世界で、光線銃とかヘルメットとか宇宙っぽいアイテムはあるんだけど、それ以外はまるで隣町で起こる出来事みたいで。ところが、「2001年宇宙の旅」はまるで違っていた。子どもが見て素直におもしろいと思うような映画ではなかったけれど、それまでライスカレーを食べていたところに、いきなりフルコースのフランス料理がドーンと出されたような衝撃を受けました。ワームホールを抜けるときの映像美にはクラクラしましたね。

———読書についてはいかがですか。

江戸川乱歩とモーリス・ルブランの「ルパン」シリーズ、アーサー・コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズは全作小学校の図書室で借りてきて読みました。ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』も何度も読み返しました。
それと小学校のときにオディロン・ルドンの作品集に載っていた、気球が目の球のようになっている絵や、一つ目の巨人、木炭で描かれた真っ黒な蜘蛛などの絵を見て、「好きな世界だなあ」と思いました。ちょっとSF的な作品ですよね。
最終的に京大の理学部に進んだけれど、そういう意味では、いわゆる典型的な理系人間ではなくて、文系のものにも強く惹かれていたようです。というより、文系、理系の境界がかなりあやういもんだなという思いはありましたね。実際、大学に入ってからますます昭和の探偵小説に嵌まってしまい、江戸川乱歩や夢野久作の小説を繰り返し読んでいました。

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