───徳島大学のあと、塩見春彦氏と一緒に慶應義塾大学に移り、現在は東京大学でラボを率いていらっしゃいます。
慶應義塾大学でずっと一緒に研究を続けるのもいいかなという思いもあったのですが、独立に魅力もあり、東京大学の教授のポストに応募したんです。そうしたら採用が決まって、2012年からは独立した研究室を持って研究を続けています。研究室を持つというのは、確かに魅力的ですが、中小企業の社長のようなもので、マネジメント、予算獲得とかいろいろ大変ですよ(笑)
───研究の醍醐味はどんなところにありますか。
これまで教科書に載っていない、誰も知らないことを明らかにすることです。そして私たちが発見したことが教科書に載ったらどんなに素晴らしいことかと思います。
───優秀な女性研究者に与えられる猿橋賞を受賞されています。
ちょうど海外出張を明日に控えた夜に受賞の電話があったのです。ばたばたしていたのですが、やはりうれしかったですね。猿橋賞の歴代の受賞者は皆さん素晴らしい業績を残された女性研究者ばかりなので、名誉に感じますね。
───お子さんを育てるうえで、何かポリシーがありますか。
自分の意見がきちんと持ち、うまく表現できるような人になってほしいと思っています。今のところ、そんな育ち方をしているようです。両親ともに研究者だということもあり、娘も理系の研究者になりたいという思いは持っているようですが、自分で自分の進む道は決めていくと思います。
───最後に中高校生へのメッセージがありましたら。
先生方やご家族などが、みなさんの生き方、進路についていろいろ教えてくれると思いますが、そうしたアドバイスにも限界があるのではないでしょうか。17、18歳のころに最初からこの道をこう進むのだと決めつけるのは無理がありますよね。人は多様性を持っていて、さまざまな可能性を持っているので、生きていく過程でフレキシブルに対応していけばいいと思います。
私は何か強い信念を持ってひとすじにやってきたわけではなく、その場その場で周囲の意見や提案を取り入れつつ、気ままにやってきました。渡米した時は博士号も持っておらず、アメリカで遊ぼうと思っていたのに、働いてみたらと言われて、いつの間にか・・とお話しましたが、平たく言うと一事が万事こういう感じです。よい見本にはならいですね。
でも、早くから研究者になろうと強い信念を持って進んできた人もいるでしょうけれど、それだけではない、別のゆるやかな道もあるんだという例になればと思います。出会いはいつどこであるか分かりません。初めから「この道だけ」と決めていなくても、肩ひじを張らずに、ただおもしろい、おもしろいで続けていたら、いつかチャンスは巡ってくる。それを拾えるか、見過ごすか。そのとき、自分を信じて、好きな道、やりたい道を選んでください。
(2016年2月26日取材)