中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「サイエンスカフェ2016」レポート 細胞シートや模擬人工心臓づくりを 最先端の医工連携施設で体験

第2部 若手研究者に聞く

歯科医師の免許取得後、歯周組織再生医療研究の道へ

講義の第2部は、清水達也先生の司会のもと、TWInsで研究活動を行っている4人の若手研究者による講義とディスカッション。

トップバッターは東京女子医科大学先端生命医科学研究所博士研究員の伊豆原るな先生。
「臨床から研究まで」と題して講義した伊豆原先生は、大学は歯学部に進み、歯科医師の免許を取得後、研究者の道を選択し、医学部の大学院で再生医学を専攻し、博士号(医学)を取得しました。現在はTWInsで博士研究員として再生医学の研究に専念している。

「なぜ歯科医師をめざしたのかというと、歯というのは全身の健康を維持する上で欠かせない大切な場所だと思ったからです。大学に入ってから研究のおもしろさを知り、現在はTWInsで細胞シートを用いた研究に携わっており、歯根膜由来の細胞シートを使い、歯周組織を再生する治療の臨床応用をめざしています。考えてみれば大学から大学院時代までの約10年間にいろいろ学んできたことが、ここにきてすべてつながって今の研究に生かされています」

こう語る伊豆原先生からの高校生へのメッセージは「失敗は成功のもと。いろいろなことにチャレンジしてほしい」
「今からならたくさんの選択肢があります。自分がやりたいと思うことに積極的にチャレンジしてほしい。研究に失敗はつきものです。その失敗から多くのことを学べます。自分の可能性を信じて、楽しみながらこれからの人生を歩んでいきましょう」

何にでも興味を持ち、好きなことに出会ったら本気で取り組め

山崎祐(やまさきゆう)先生は東京女子医科大学先端生命医科学研究所博士課程2年に在籍。医学部卒業後は臨床医(専門は循環器科)として9年間勤めた後、「今の治療では治せないような病気を治せるようにしたい」とiPS細胞を使った再生医療の研究に取り組んでいる。

山崎先生は子どもの頃から今日まで、自らに問い続けていることがある。それは「生きることと死ぬこと」だ。
「3歳のころ、『あなたの知らない世界』というテレビ番組を見て、母親に『死ぬってどんな感じなんだろう? 苦しいのか、それとも何もわからなくなる感じなのか?』と尋ねたのがきっかけでした。16歳で将来の進路選択を考えた時には、よい死とそうじゃない死があるとするなら、よい死の方がいいが、よい死に方をするにはどうすればいいのだろう。それを知るには医師になるのがいいだろうと医学を志すことを決意しました。医師になった現在も、よい死については明確な答えは見つかっていませんが、少なくとも生きているうちは元気で楽しく、後悔のないように過ごせるといいですね、と患者さんと話しています」という。

そして、高校生たちにはこんなメッセージを寄せてくれた。
「何にでも興味を持ってください。興味を持たなければ何が好きかという事も分からないものです。高校生の頃というのは、将来自分が何をやりたいのかさえ分からなかったりします。しかし、色んな事に興味を持って取り組むと、これが自分の好きなことだ、あるいは自分に合っていることなのだという判断ができるようになります。そして、好きなことに出会ったら本気で取り組んでください。本気で取り組んだことは、きっと将来役に立ちます」

社会人に開かれた医学研究講座をきっかけに、医学博士をめざす

佐野和紀(さのかずのり)先生は、静岡県にある東海ヒットという会社の開発部に所属している会社員だが、現在は出向して東京女子医科大学先端生命医科学専攻代用臓器分野大学院3年生として研究に従事している。研究のテーマは、細胞シートによる立体心筋組織構築のための生体外バイオリアクターの開発。

佐野先生は高校生たちに「会社員とは何しているんだろうと考えたことがありますか?」と質問。擬似会社員体験として、名刺交換の実演を見せてくれた。

企業の開発部にいた佐野先生がなぜ大学の研究室に籍を置くようになったのか?
「これまでいくつもターニングポイントがありました。微生物の研究者になりたいと思ったり、バイオテクノロジーで地球環境問題を解決したいと思ったり。その後環境問題に対するモチベーションがなくなり、小さな会社で新しい仕事を創りたいと会社員に。ところが普通に会社員人生を送るのかと考えていたら、バイオメディカルカリキュラムという東京女子医大で行っている社会人向けの医学研究に参加することになりました。これは企業、研究所、病院などで業務に従事している工学系、医学系の技術者などを主な対象として、日常業務に従事しながら医学全般についての系統的な知識を学べるようにスケジュールされた1年コースの公開講座です。ここで初めて女子医大と接点を持ち、大学院に入学して共同研究をやりながら医学博士をめざしているところです」

そんな佐野先生からのメッセージは——————。
「今まで生きてきた中でいえるのは、何をやるにせよ、生きていく上での軸というか芯になるようなものを持つことが大事かなと思います。もちろん、軸は変わってもいい。そのときそのときで、自分はこういう軸で、これをやるんだ、というものがあるとやる気も湧いてくるのではないかと思っています」

何かに打ち込み、チャレンジとコミュニケーションを大切に

宿輪理紗(しゅくわりさ)さんは早稲田大学大学院修士1年生の22歳。参加した高校生とはもっとも年が近い。

宿輪さんは高校卒業後、早稲田大学先進理工学部生命医科学科に入学したが、なぜこの学科を選んだかというと——————。
「私が生物系に絞ったのは高3の10月あたり。だから皆さんがまだ進路がハッキリ決まっていなくても安心してください。十分、間に合います。なぜ生物系かというと、化学や物理よりも生物が好きだったからという漠然とした理由です。高校時代に教えてくれた生物の先生がとてもおもしろい方で、それで遺伝子になんとなく興味を持ちました。生命の誕生など、わかっていない部分が非常に多いということを感じていたので、それにも興味がありました。
ではなぜ生命医科学科を選んだかですが、この学科の特徴は理学・工学・医学が融合しているということです。私にとってお医者さんのイメージは、患者さんと1対1で診察して病気を治すというものですが、それでは救える人数が限られてくる。お医者さんが使う医療器具や処方する薬の開発をすれば、1対1ではなくて患者さん全員を救うことになると考え、この学科を選びました」

宿輪さんが「高校生のうちにやっておいてほしいこと、自分自身やっておいて絶対損はなかった」と思うのは「何かに打ち込むこと」。
「勉強でも、部活、文化祭でもいい。何かに打ち込んだ結果、それが自信につながったり、達成感を味わうことで得るものがあったり、人生の糧になると思います。また、これは私も常に自分に言い聞かせ、心がけていることですが、さまざまなことに積極的にチャレンジしてほしい。そして、人とのコミュニケーションを恐れず大事にしてほしい。わからないことがあったら先生や友人に聞くだけでも、今まで知らなかった価値観に触れられるし、自分の人生がより豊かになっていくと思います」

「研究がうまくいかないとモチベーションが下がる?」の質問に・・・

講義のあとは高校生からの質問タイム。

「人と積極的に仲良くしてワイワイ騒ぐのが苦手なんですけど、コミュニケーションを上手にとれるような方法を教えてください」という質問にはこんな答えが。
「相手のことを気にしすぎたり、自分はこういう姿で接すべきと考えすぎると、逆にそれがストレスになるので、ありのままの今の自分をさらけだすのが大事では。たとえば、コミュニケーションが苦手なら、それが自分なんだということをさらけだすところから始めれば、本当の意味の友だちができるのではないでしょうか」(佐野先生)
「ワイワイ楽しむだけがコミュニケーションの取り方ではなくて、それこそ静かに話し合うだけでもコミュニケーションだし、むしろしゃべらなくても伝わることってあると思います。いろいろな人とかかわる、初めての人としゃべってみる、いろんな人とのことをちょっと頭の片すみに入れてみる、というだけでも変わってくるかなと思います」(宿輪さん)

こんな質問も。
「自分は将来、アレルギーの根絶を研究したいと思っているが、研究をしてもなかなか成果が得られないときはモチベーションが下がってしまうのでは? そういう意味でいうと研究者って地味だなと思うこともありますが、研究者として生活していく上でやりがいみたいなものを伝授してほしいです」

先生たちからの答えは──。
「清水先生の『心臓を創る』と同じようなことだと思いますが、アレルギーの根絶という最終目標は持ち続けながら、少しずつ成果を積み重ねていくことだと思います。今までわかっていなかったことがわかることで、『やっていてよかった』という達成感につながるはずです。もちろん、目の前のことを追いかけるだけでなく、最終的にはアレルギーの根絶を自分はやるんだという目標を失わない、というのが大事だと思います」(山崎先生)

「自分の持っている最終目標を見失わないというのは大切なことですが、最終目標を持っていたとしても、目標にたどりつくまでに1年2年で終わるなんてことはまずありません。10年かかるのか20年、30年かかるのか、解明できないかもしれないというのが研究の世界だと思います。だからこそ、自分ですべてを成し遂げることだけを目標にするのではなく、ほかの人たち、さらにはほかの分野の人たちともかかわりを持って取り組めば、決してモチベーションが下がることはないはず。困難に直面しても、こういうこともあるかなと、キリキリしないことも大事ですね」(伊豆原先生)

また、「生物と物理の両方を勉強しているが、もし大学で先端生命医科学について勉強するならどちらを選択したらいいですか?」という質問には、現役の学生である宿輪さんが「私の場合、生物に興味を持っていましたが、やっぱり物理・化学で受けられる大学が非常に多く、たとえば物理・生物では受験できないところが多かったので、生物が好きだという思いを持ちながらも、受験は物理・化学にしました。自分が受けたい大学の受験科目を確認する必要がありますね。でも、高校2年生3年生で生物を学んでいなかったからといって、大学に入ってからこれといったデメリットはなかったので、生物をとってなくても大丈夫だと思います」と回答。
司会の清水先生も「あとでいくらでも勉強できるので、こだわらない方がいいかもしれませんね」と後押し。
最初はなかなか発言できなかった高校生たちも、次第に積極的になり、質問タイムが終了した。

懇親会

高校紹介と班対抗のクイズ合戦で交流を深める

じっくり講義を聴いたあとは、夕食を兼ねた懇親会。バイキング形式の料理を楽しみながら、自己紹介と学校の特色などを3分でアピール。
今年も大いに盛り上がったのが3つのチームに分かれての「班対抗クイズ合戦」。翌日の実習で一緒に行動する班ごとにチームをつくり、クイズに挑戦するのだ。「オシム酸、オカダ酸、ザッケローニ酸、ジーコ酸のうち、実際にある化合物名はどれ?」「ヒトの性を決定する染色体の型はXY型ですが、バッタの性を決定する染色体の型は?」などの4択問題をはじめ、「元素記号がアルファベット1文字の元素は?」「人口1億人以上の国は?」「江戸時代の徳川将軍(征夷大将軍)15人の名前を挙げよ」など、正答一つにつき1点の一発逆転が狙える問題で大いに盛り上がった。

興味深いレクチャーを行った若手研究者の皆さんも懇親会に参加してくださり、高校生たちと積極的にコミュニケーション。翌日の実習に向けて、交流を深める機会となった。

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