中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「サイエンスカフェ2014」レポート 再生医療や人工臓器など 生命科学研究の最前線に興味津々!

[2日目]いよいよ班ごとの実習開始

施設見学のあとは、サイエンスカフェのメインプログラムの実習がスタート。プログラムは(1) 大動物実験室見学・実習、(2) 簡易型人工心臓の作製、(3) 温度応答性材料の実験と細胞シート操作の実際の3つ。

温度応答性材料と細胞シート

温度で変化する物質の不思議

実習プログラムの一つ「温度応答性材料と細胞シート」は、再生医療に用いられる細胞シートについて、より深く理解するためのプログラム。まずは温度応答材料の観察と実験だ。

ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)という温度で変化する高分子材料を使って、温度によってどのように変化するかを観察する。 PIPAAm水溶液(10㎎/㎖)が入ったサンプル瓶が各自に配られ、指導の先生からの指示で瓶を手の中で握って温めてみると、瓶の中の液はたちまちのうちに白くなっていく。次に氷水につけて瓶を振ると、一瞬にして透明になり、元の状態に。

次は、温度によってゲルに変化する高分子溶液の観察だ。
用意されたのはプルロニックF127(商品名)という界面活性剤型高分子の水溶液(200㎎/㎖)が入っているサンプル瓶。これを人間の体温と同じ37℃のお湯に入れると、白くなって固まってしまう。これを氷水につけるとどうなるか。数秒すると透明の液体に戻ってしまった。

海藻由来の高分子でゲルカプセルをつくる

今度は、海藻由来の天然高分子(アルギン酸ナトリウム)を使ってゲルカプセルをつくってみる。
色素を含んだアルギン酸ナトリウム溶液(20㎎/㎖)をピペットで吸い取り、2%塩化カルシウム溶液にポタポタと落としてみる。すると瞬時にゲルになり、赤、黄、緑の小さな玉がいっぱいできた。何かに似ているなと思ったら、人工イクラがこの原理でつくられていた。また、子どものころ遊んだスライムもやっぱり同じ原理だ。
アルギン酸は多数のカルボキシル基を持つ糖構造が連結した天然高分子。2価の陽イオンであるカルシウムイオンが存在すると、アルギン酸中の2つのカルボキシル基と結合して架橋点が生じてゲル化する。
この特性を利用して、細胞や薬物を含むアルギン酸溶液を塩化カルシウム水溶液に滴下するだけで、液滴の周囲にアルギン酸塩からなるゲル層が形成され、細胞や薬物を封入したゲルカプセルをつくることができる。
このような原理で薬物を封入したゲルカプセルでどんなことが可能になるかを先生が教えてくれた。
たとえば、カプセル型人工膵臓への応用を考えてみよう。糖尿病になると膵臓から分泌されるインスリンの量が減ったり、働きが悪くなったりして、血糖値が病的に高い状態となる。このため糖尿病が悪化すると、食事ごとにインスリンを自己注射しなければいけなくなるのだが、体内にカプセル型の人工膵臓をつくって、その中にインスリンを封じ込めたらどうだろうか。体内に入ったカプセルの膜からインスリンが徐々に透過して出ていき、いちいちインスリン注射をしなくてよくなる。また、膜があることで免疫反応から守ってくれるので安全に使える。まだ実現はしていないが、近未来の技術といえるだろう。

細胞培養の基本操作を知る

続いて行ったのが細胞培養と細胞シートの操作。今まさに注目されている再生医療の最先端技術に触れるチャンスだ。

まずは、基本となる細胞培養と増殖した細胞を新たな培養皿に移しかえる細胞継代操作にトライした。各人の前に置かれた培養皿の中では、皮膚の線維芽細胞が培養されている。ゴム手袋をはめ、電動ピペッターの使い方を教わったあと、さっそく先生の指示通りに進めていく。培養液を除去して細胞だけにし、緩衝液を加えて細胞を洗浄。そこにタンパク質分解酵素を加えたあとCO2インキュベータ(培養器)に入れ、37℃で加温する。約5分後に細胞の状態を確認し、剥離していたら、培養液を加え、細胞をバラバラにするためにピペットで吸引、排出を繰り返す。細胞を遠心管に移した後、3分間遠心処理し、底に沈殿している細胞を吸い取らないようにして上澄み液を除去し、培養液を加えて新たな培養皿に移しかえる。それをまた、CO2インキュベータで培養するのだ。
最初はおそるおそるだった高校生も次第に、一度にピッタリ培養液をピペットで取ることができるようになり、片手操作にチャレンジする人も。

細胞シートをつくり、模擬移植にチャレンジ!

今度は細胞シートの実験だ。 細胞の入った培養液を、温度応答性のポリマーを薄くコーティングした「温度応答性培養皿」に蒔いて37℃のCO2インキュベータで培養する。この細胞をシートとして回収するには、剥がしやすくなるよう低温のCO2インキュベータに移して32℃以下にするのだ。
「あっ、ここをケガしました。はやく移植してください」と先生。
いったいどうやって細胞シートを培養皿から取り出すのだろう? まず培養皿から培養液を除去して細胞シートを培養皿の中央に寄せたあとは、上からそっと湿らせた支持膜を載せる。この支持膜をピンセットでそっとつまみ上げると細胞シートが支持膜にくっついて培養皿から剥がれるのだ。ゴム手袋の甲のボールペンでつけた赤いキズの部分に、支持膜を載せ、支持膜をピンセットでゆっくり剥がすと、細胞シートのみが接着され、移植成功!なかなか上手に剥がれないこともあり、実験室の中は落胆の声と歓声が入り交じっていた。
前日の清水先生の講義で、こうした細胞シートが現実に患者さんを救っていることを知り、日々の地道な研究の大切さに思いをはせる生徒たちだった。

「オペのうまい外科医になるには?」の質問も

班ごとに行われた実習のあとは全員が集まり、2日間を通じての質問と自由討論。「理学部を出て生命科学を研究するのと、医学部を出て生命科学の基礎研究するのとではどんな違いがありますか?」「術中MRIとナビゲーションについて詳しく聞きたい」「人工臓器の開発が進めば人は死なないことにもなる?」「オペのうまい外科医になるには?」などの質問が寄せられ、それぞれ専門の先生たちが答えてくれた。

最後に修了証が一人ひとりに手渡され、2日間の全日程は無事終了。参加者にいろいろなヒントを与えてくれたことだろう。

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