中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「サイエンスカフェ2014」レポート 再生医療や人工臓器など 生命科学研究の最前線に興味津々!

講義3 生物における造血制御の多様性 血球の造られ方と調べ方

休憩のあとは早稲田大学・加藤尚志教授の講義。

ヒトのからだは60兆個を超える細胞から成り立っているといわれ、そのうち、血液中の赤血球は3分の1以上の25兆個にもなるという。赤血球のほか、血球(血液細胞)には血小板や白血球があり、それぞれ重要な働きをしているが、これらはすべて骨の中にある「造血幹細胞」という共通の源から、どの血球になるかの「分化」を指示する「造血因子」の働きによって赤血球になったり、血小板になったりしている。
たとえば赤血球の場合、赤血球産生因子(EPO)の作用によって造血幹細胞から赤血球へと分化するが、このEPOを世界で初めて遺伝子組換分子にして精製し、世界トップの売り上げを誇るバイオ医薬品の開発に貢献したのが加藤先生。その後、加藤先生は長年、未知のままだった血小板産生因子(TPO)の研究に取り組み、15年の歳月を経てTPOの純化と構造解明に成功したことで知られる。

血小板産生因子の発見

「血小板は、血管が傷ついたときに傷口をふさいで血が流れ出すのを防ぐ働きをしているほか、組織修復といって傷んだ組織を修復する働きもしています。小さな粒々なので血小板と呼ばれますが、元々は巨核球という大きな細胞で、これがちぎれて粒々になっていく不思議な細胞です。その血小板をつくる因子をどのようにして見つけたか? 細胞分裂が盛んであるほど放射線の影響を受けやすいことがわかっていて、骨の中でつくられる血球の細胞も、放射線を当てると次々と死んでいきます。ところが、造血幹細胞だけはじっと耐えることができます。ラットで実験すると、放射線の照射後に血小板の回復が進んでいるラットでは、何らかのホルモンが出ていることがわかりました。延べ5000匹のラットを使って実験したところ、このホルモンは放射線を浴びて血球が一番減っているときにつくられることがわかり、このときの血液を取ってきて調べた結果、産生因子の正体を突き止めることができたのです」

加藤先生はさらに続ける。
「私の研究では、たった一つのホルモンの探索のために5000匹ものラットを犠牲にしてしまいました。しかも15年もかかりました。今なら同じ研究が最先端の質量分析の技術を使うと5匹のラットでできます。技術の進歩がもたらす恩恵は、こういったところにもあるのです。さらに、血液を1滴とってきて分析装置にかけると、その中に何百何千のタンパク質がどれだけあるかがたちどころにわかってしまう時代がやってきました」

生物学の新しい可能性

加藤先生は、先端科学の力によって生物学に新しい可能性が出てきた、と言う。
「生物学の視点が点から面に変わろうとしています。たった1個の分子を見つけるのに15年かかった時代と違い、今は同時に何千もの分子を対象に研究することができます。その結果、生体の持つあらゆる分子情報を個別に見ると同時に分子全体を網羅的に見ることが可能になりました。これを『オミックス』といい、今後は一つひとつの点(分子)の関係を結んで、全体像(システム)の中で調節・制御系を考えていくことが重要になります」
もう一つ、加藤先生が強調するのが研究対象の広がりだ。
「今までヒトやマウスしか相手にしなかった研究も、地球上にはもっとたくさん生き物がいるのだから、野生動物を含め、あらゆる生物を対象にいろいろな研究ができるようになるでしょう。多様な生物の仕組みを知ることができれば、生物進化の物差しをあてて人間の仕組みの解明にもつながるでしょう。
たとえばカエルは、いろんな環境に耐えて生きていて、環境に対応した仕組みをたくさん持っています。アフリカツメガエルの例ですが、低温の環境下ではジーッとして動きません。動かないでいると酸素を燃やさなくていいので、赤血球が不要になる。では酸素はどこへ行くかというと、肝臓に行きます。つまり、低温にするとエネルギーをつくるためのスイッチが切り替わって、酸素を利用する別の仕組みをスイッチオンするのです。こうしたカエルが持っている仕組みを、人に利用できないだろうか、と考えるわけです。カエルとヒトを別々に見るとわからないことでも、点を面にして考えてみると、今までわからなかったことがわかるかもしれません。こういう生物学を今、私の研究室ではやっています」
講義の最後に加藤先生は、研究室で一緒に研究している学生の声をビデオで紹介してくれた。加藤研究室の目標、それは「世界初の発見で歴史をカエル」ということだそうだ。

講義4 細胞シートと心筋再生~再生医療最前線

講義の最後は、東京女子医科大学 清水達也教授の「細胞シートと心筋再生」。

冒頭、清水先生が高校生たちに語ったのは「再生医療とは何か」。
「再生医療というと、切れたトカゲの尻尾がまた伸びてきたり、バラバラのプラナリアからそれぞれのからだが再生されるイメージを持たれがちですが、現状の再生医療はその段階にはありません。日本では『再生』と言いますが、アメリカでは『ティッシュ・エンジニアリング(組織工学)』といい、医学と工学が連携して細胞から組織や臓器をつくるというイメージです」
組織をつくり出す元となるのが幹細胞だ。幹細胞は、自分で自分を複製できる「自己複製能」と、さまざまな細胞に分化しうる「多分化能」を持つ。幹細胞のなかでも、多様な細胞になるものに、ES細胞やiPS細胞があるが、ではES細胞やiPS細胞で今すぐ患者さんを救えるかというとそうではない。iPS細胞を使った網膜再生の臨床試験が今まさに始まろうとしているがまだまだ高いハードルがある。
「iPS細胞を使った再生医療はどのように行われるのでしょうか。たとえば心臓の場合、患者さんの細胞からつくったiPS細胞を心筋細胞に分化させて何らかの液体に入れて注入しても、大半の細胞はどこかへ行ってしまいます」

健康な細胞をくっついたまま取り出せる細胞シート

そこで今、清水先生が取り組んでいるのが、東京女子医大の岡野光夫先生が開発した「細胞シート」だ。細胞シートとは、いってみれば、細胞が粘着シートのようなシート状になっており、それを再生したい部位に移植する。
「細胞をプラスチックの培養皿で培養すると、分裂してお互いに手をつないでシート状になります。しかし、培養した細胞を剥がそうとしてトリプシンというタンパク分解酵素を入れると、細胞がバラバラになってしまいます。そこで岡野先生が考えたのが、培養皿に温度で性質を変えるポリマーを、目に見えない20ナノメートルの薄さでコーティングすること。細胞を37℃で培養するときは疎水性なので水を弾くがタンパク質はくっつきやすい。ところが、32℃以下に温度を下げると親水化して、タンパク質がくっつきにくくなって細胞をきれいに剥がすことができるのです。これが細胞シートです。細胞にダメージを与えることなく、細胞同士がくっついている状態で移植できる全く新しい方法です」
清水先生によると、「大事なのは、細胞シートは異物を含まないということだ」という。別の足場などを支持体とする方法では、異物が入るため体の中に入れると拒絶反応を起こしたり、溶けるときに炎症を起こしたりするが、細胞シートは細胞だけでできているので、移植すると馴染んでいき、拒絶反応もないのだ。
「現在からだのさまざまな部位で、患者さん自身の細胞でシートをつくって移植する研究が進んでおり、角膜、心臓、食道、歯周病、軟骨、気胸などでは、臨床もスタートしています」

心筋細胞シートの治験がスタート

このうち心臓の病気に使う細胞シートについては、テルモが実用化をめざして2012年から国内での治験を始めている。治験の対象としているのは虚血性心疾患による重症の心不全の患者さんで、患者さんの大腿部から筋肉を採取し、これに含まれる骨格筋芽細胞を体外で培養してシート状にし、傷んだ心筋の表面に貼ることにより、重症心不全の病態改善を図ろうとするもの。治験の結果を受けて国の認可が得られれば商品化される見通しで、多くの命が救えるようになるとの期待が高まっている。

講義の最後に清水先生は、厚みのある心筋組織をつくる研究を紹介してくれた、心筋細胞とともに血管をつくる細胞を入れて細胞シートを培養し、できた細胞を少しずつ積み重ねていく。これをラットに移植すると、血管がつながり拍動するのだ。
「将来的には心臓をつくろうとしています」という清水先生の話に、高校生たちは目を丸くして聞き入っていた。

班対抗のクイズ合戦でチームワークと知恵の競演!?

じっくり講義を聴いたあとは、夕食を兼ねた懇親会。バイキング形式の料理を楽しみ、参加者が学校別に自己紹介。各学校の特色などを紹介しあった。
今年も大いに盛り上がったのが3つのチームに分かれての「班対抗クイズ合戦」。翌日の実習では3つの班に分かれて行動するが、一緒の班で行動するメンバー同士でチームをつくり、互いに知恵を出し合ってクイズに挑戦。「ベンジャミン・フランクリンがアメリカで初めてつくった公共施設は何か?」「一つの細胞の中のDNAをつなぎあわせるとどれくらいの長さになる」など10問が出題されたが、接戦で2チームが同点で並び、最後は「世界の首都で『リ』がつく名前を制限時間内に思いつくだけあげよ」という追加問題で決着がついた。

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