中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「サイエンスカフェ2014」レポート 再生医療や人工臓器など 生命科学研究の最前線に興味津々!

[1日目]第一人者4人の先生による生命科学講義

1日目は東京・新宿にある京王プラザホテルで4人の先生による講義が行われ、夜は懇親会でコミュニケーションを深めた。

講義1 人工臓器最前線──機械工学が先進医療に貢献する

最初の講義は、早稲田大学理工学術院教授でTWInsの早稲田大学側のセンター長を務める梅津光生先生。

梅津先生はまず、今回、テルモ科学技術振興財団の主催でサイエンスカフェが開催される意義について高校生たちに語りかけた。 「私は、テルモ科学技術振興財団が医学と工学の連携を大切にしていることに共感して、財団の理事としてもお手伝いしています。テルモという会社はお金儲けだけをやっているのではなく、将来世代を育成し、勇気づけるため、こうしたサイエンスカフェのようなことにも熱心に取り組んでいます。みなさんも今回参加されたことをきっかけに、財団の活動を理解していただければ幸いです」

血管は流体回路だ

梅津先生は人工臓器研究の世界的なパイオニアで、世界でも数少ない機械工学と医学の両方の分野に精通した研究者。40年以上にわたって人工臓器の開発に取り組んできた。しかし、この道に入ったきっかけが変わっている。
「私は子どものころから鉄道が大好きで、現在も早稲田大学の鉄道研究会の会長をしています。そんな私がなぜ人工臓器を開発するようになったのか。それはすばらしい人々との出会いがあったからですが、最初の出会いが、東海道新幹線の関ヶ原の消雪用スプリンクラーを開発した流体制御の専門家、故・土屋喜一早大教授です。この先生のところに行けば鉄道の研究ができるだろうと研究室に入ったところ、先生はこう言うのです。『その研究はもう終わったよ。これからは医学の時代がくるから、医学をやりなさい』。ぼくは病気になったこともなければ、医者になろうと思ったこともなく、医学なんて関係ないと思ったのですが、土屋先生はさらにこう言うのです。『君は関係ないというけれど、人のからだを見てごらん。血液が流れているだろう。あれは流体の回路なんだよ。いってみれば流体制御。これこそ、これからの研究テーマじゃないか』。『わかりました』と医学の研究を始めのが、1974年のことでした」

人工心臓のプロジェクトに参加

1979年、梅津先生は大阪へ行く。大阪大学医学部教授で、国立循環器病センターの初代病院長となった曲直部寿夫先生が、国際学会で梅津先生の生まれて初めての学会発表を聞いて「こんなおもしろい発表を聞いたのは初めてや。一緒に大阪で働こう」と声をかけてくれたのだ。梅津先生は国立循環器病センター研究所の開設メンバーの一人として、補助人工心臓プロジェクトに参加することになった。
先生が開発に参加し、その後企業化された体外設置型の空気圧駆動人工心臓は、今まで1000名近くの患者に使われてきた。また、体内埋込み型の遠心式補助人工心臓「EVAHART」は、東京女子医大の山崎健二教授発案のものを、諏訪のベンチャー企業が中心に東京女子医大、早大、ピッツバーグ大、そして50社の企業などの知恵を結集してつくり上げたもので、すでに商品化され、これまで100人の患者に使われている。
さらに、早大とベンチャーによる医工連携で冠動脈バイパス手術の技術評価を可能にしたトレーニングシミュレータの開発にも取り組み、心臓外科医の技術習得に大きく貢献している。

医工連携で次世代の研究者を育てる

梅津先生は、TWInsの役割についてこう述べて講義を締めくくった。
「2008年4月に東京女子医大隣接地の2000坪にTWInsと呼ばれる女子医大・早大の生命医科学連携施設がオープンし、真の医工連携を実践できる環境をつくるという永年の私の夢が実現しました。そこでは、医工連携を旗印に、再生医療、ロボット手術、人工臓器開発をはじめ数々の先進医療への挑戦が行われています。このような新しい環境の中で、人との出会いを大切にしながら、世界で活躍できる次世代の人材を育てていきたいと思っています」

講義2 脳の機能を知る覚醒下脳手術と最新治療

続いては、東京女子医科大学先端工学外科(脳神経外科兼任)の村垣善浩教授による講義。 東京女子医科大学では、国内で最も初期となる2000年に、手術前の脳機能マッピング、手術中のMRIや脳機能解析システムなどを組み合わせた、インテリジェント手術室を立ち上げた。この手術室で村垣先生らが取り組んでいるのが、覚醒下、つまり患者さんが起きたままの状態で脳の開頭手術を行うという驚きの手術だ。

脳は場所によって機能が異なる

本題に入る前に、村垣先生は生徒たちに「言語の中枢は脳の右と左のどっちにあると思う?」と質問。
「右利きの人の9割は左側に言語の中枢があります。では、左利きの人はどうか? 実は五分五分です。左利きの人は言語中枢が右の人もいれば、左の人もいて、どっちかわからない。それは手術する方にとってはとても怖いことです」。
脳以外の臓器は、肝臓にしても肺や心臓にしても持っている機能は同じ。たとえば肝臓がんでかなりの部分を切除したとしても、残りの部分も同じ機能を果たしているから、ある程度の量を残せばいい。
「ところが、脳は言語中枢だったり運動中枢だったり、場所によってやっていることが違う特殊な臓器です。なので、たとえ切除するのがほんのわずかでも、重要な場所であれば大きな障害が残ってしまいます」

実際の手術のビデオに釘づけ

では、救命率を上げて、後遺症がないようにするためにどうしたらいいか。この課題を解決するために最先端の医学と工学の技術を集めて実現したのが、村垣先生らが行っている覚醒下手術だ。
麻酔をかけて頭部を切り開いたあと、患者さんの麻酔を覚まさせて、意識がある状態で手術を行う。患者さんを目覚めさせても、脳そのものには感覚がないため、患者さんは痛みを感じないのだという。患者さんとの会話を通じて、これ以上取ってはいけない場所を探りながら、ここまでなら大丈夫というところまで腫瘍を取り去っていく。
手術中の様子がビデオで映され、高校生たちは固唾をのみながらその様子に見入る。左の前頭葉に脳腫瘍のある患者さんの手術シーンが映された。この人の場合、腫瘍のある場所が言語中枢と重なっていることがあらかじめわかっていたので、手術の前からどうしたらいいか、患者さんと話し合いが続けられていたという。
実際、手術を始めてその部分を刺激すると患者さんはしゃべれなくなる。患者さんの頭のまわりで「どうしようか」と村垣先生らが相談していると、患者さんはきっぱりとこう言った。
「先生、リハビリで治るんだったら、切ってください!」
村垣先生は語る。
「患者さんは術前に勉強していて、どうしたらいいか、自分なりの考えを持って手術に臨んでくれました。その上での患者さん自身の決断であり、我々にとって力強いあと押しとなって最高の治療ができました」
村垣先生が強調するのは、意思決定するときは、いかに信じられる情報を集めるかが大事だということだ。この手術の場合の患者さんの意思決定も、事前の話し合いや勉強、そして手術中の会話など、目に見える情報がきちんと患者さんに届けられていたからこそ決断できたのだろう。

意思決定のために必要なのは情報収集と数字の読み方

村垣先生の高校生たちへのメッセージも意思決定の大切さだった。
「みなさんは社会に出たとき、どう意思決定をしますか? 試験に出てくるような解答はなかなかありません。結局、意思決定とは、どちらの利益を選ぶか、どちらのリスクをとるかです。そのときに必要となるのが、統計や数学にある程度強くなっておくこと。でないと、だまされてしまいます。たとえば我々が患者さんに手術の話をするとき、『この手術は70%成功します』と言うととてもいい感じですが、『30%死亡します』と言うと怖いですね。社会に出るとこういうトリックと多く遭遇します。ぜひ確率とか、統計を勉強しておいてほしい。そして、目に見える、信じられる情報をいかに集めるかも意思決定には欠かせません。これが、“人生の先輩”としてのみなさんへのアドバイスです」

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