中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「サイエンスカフェ2013」レポート 最先端の生命科学を“体感”した2日間 関東1都6県の高校生31名が参加

[1日目]4人の先生の最先端生命科学講義のあと、懇親会でコミュニケーション

1日目は東京・新宿区の京王プラザホテル44階の会場で、第一線で活躍する4人の先生方による講義を聴いたあと、夜は懇親会で盛り上がった。

講義1 人工臓器最前線──機械工学が先進医療に貢献する

最初は、早稲田大学理工学術院創造理工学部総合機械工学科教授の梅津光生先生による「人工臓器最前線──機械工学が先進医療に貢献する」と題する講義。
梅津先生は人工臓器研究の世界的なパイオニアで、機械工学と医学の両方の分野に精通した研究者。40年以上にわたって人工臓器の開発に取り組んできた人だ。
学生時代、鉄道オタクの梅津先生に、「やがて医学と工学が一緒にやる時代が必ず来る。新分野に挑戦しなさい」と勧めてくれたのが、恩師の流体制御が専門の土屋喜一早大教授だった。梅津先生は早大大学院の博士課程を修了すると、大阪にある国立循環器病センター研究所の初代研究員となり、補助人工心臓の開発プロジェクトに参加する。その後企業化された体外設置型の空気圧駆動人工心臓は、これまで1000名近くの患者に使われている。また、医師の訓練のために、冠動脈手術用シミュレータを開発。エンジニアの発想で、医学の水準を大きく向上させることができることを世界に証明してきた。
2008年3月、東京女子医大の隣接地に誕生した、東京女子医科大学と早稲田大学が連携した先端生命医科学研究教育施設・TWInsは、真の医工連携を実践できる環境をつくりたいという永年の梅津先生らの夢を実現した施設で、再生医療、ロボット手術、人工臓器開発をはじめ数々の先進医療への挑戦が行われている。「このような新しい環境の中で、人との出会いを大切にしながら、世界で活躍できる次世代の人材を育てていきたい」。それが先生からのメッセージだ。

講義2 脳の機能を知る覚醒下(起きた状態での)脳手術と最新治療

続いての講義は、東京女子医科大学先端生命医科学研究所先端工学外科学分野/脳神経外科(兼任)教授の村垣善浩先生による「脳の機能を知る覚醒下(起きた状態での)脳手術と最新治療」。
開口一番、「人間と動物の違いは何だろう?」と村垣先生は高校生に問いかけた。「言語を使ってコミュニケーションする」「火を使う」「文明を発達させた」などの声があがる。鳥や動物だってコミュニケーションするけれど、「時間や空間を超えて」コミュニケーションしてきたのは人間だけだ、と先生。そこで大きな役割を果たしてきたのが脳だ。その脳に腫瘍ができて脳の機能が低下した場合、どのように腫瘍を摘出したらよいのだろう。
脳は身体機能を司るさまざまな領域が複雑に入り組んでいて、個人差があるため人によってもその位置などが微妙に違う。また、悪性腫瘍はしみ込むように育つため、脳腫瘍の個所を一塊で摘出するのは困難だという。患者さんに長生きしてもらうためには完全に腫瘍を取り去りたいが、腫瘍が言語野や運動野などにも広がっている場合があり、取り過ぎるとその後の生活に支障が出るなど後遺症の危険がある。そこで、最先端の装置を使い、手術中でも患者さんを起きた状態にして、会話を通じて脳の領域を確認しながら腫瘍の摘出を行うのが「覚醒下脳手術」だ。
先生はある手術中に、腫瘍を全部摘出するかどうかギリギリの判断を迫られたとき、合併症のリスクと治る可能性の両方の説明を受けた患者さんから「先生、リハビリで治る可能性があるのなら切ってください」と言われたことがあるという。これは、説明の上で患者さん自身がその治療に同意する「インフォームド・コンセント」を超えた、「インフォームド・ディシジョン」、すなわち患者さん自身の意思決定による治療の選択であり、医師と患者の双方が互いに情報を共有することで可能になったと村垣先生は考えている。
手術や治療では100%の「安全・安心」はない。できるのは「リスク低減とリスクの受容」であり、そのためにも医療技術を進化させていくことが必要だ、と村垣先生は語る。
リスク低減に貢献する、手術の最中に脳の状態を正確に可視化できるMRI(磁石の力で脳を見る)装置や、車のナビのように実際に手術で触っているところを示す手術用ナビゲーション装置、腫瘍だけが蛍光を発する特殊な薬が開発されていることなどの最新技術が紹介され、最先端のインテリジェント手術の可能性に高校生たちは興味津々だった。

講義3 生物における造血制御の多様性 血球の造られ方と調べ方

早稲田大学教育総合科学学術院教育学部理学科生物学専攻・教授の加藤尚志先生の講義は「生物における造血制御の多様性 血球の造られ方と調べ方」。
加藤先生は、赤血球産生因子EPOを世界で初めて遺伝子組み換え分子にして精製。これは世界でトップの売り上げを誇るバイオ医薬品となった。その後も、長年未知の存在だった血小板産生因子TPOを15年かけて探索し、これも世界で初めて発見したことで知られる。
加藤先生によると、ヒトの身体を構成する60兆個もの細胞のうち、血液中の赤血球はその3分の1以上の25兆個もあるという。血球(血液細胞)には赤血球のほか白血球や血小板があり、それぞれ重要な働きをしているが、そのすべてが「造血幹細胞」という共通の源から、1日に合計で4000億個も造られ、同時に4000億個が日々壊されている。このダイナミズムがどのように制御されているのかを探究しているのが、加藤先生の研究室だ。
地球上のほとんどの脊椎動物は赤血球を持っている。しかし、南極海にすむコオリウオは赤血球を持っていないという。こうした動物や、全ゲノムが解読されているアフリカツメガエル、からだが透明なゼブラフィッシュなどのモデル動物を使いながら、「生物における造血制御の多様性」の研究を進め、どのような分子の、どのような作用により造血が制御されているのか? 細胞の増殖と分化はどのような機構で調節されているのか? 造血を解析するためにはどのような工夫が必要なのか? などの課題に取り組んでいるのである。
講義の最後に加藤先生は、一緒に研究している大学院生たちの声をビデオで紹介してくれた。
「私はさまざまな動物を用いて環境の変化に応答する造血機序を追っています」「私はアフリカツメガエルを用いて低体温時に血液中の血小板が減少する機序を調べています」「アフリカツメエルの赤血球造血が低酸素に応答するかどうかということを、水を低酸素にした水槽にカエルを沈めて低酸素状態にすることで検証しています」「メダカの赤血球産生に関する研究を行っています」・・・・・・次々と研究テーマを語る研究生たちの映像を見ながら、高校生たちは、新たな答えを探るために、自分なりの方法論でさまざまな角度から研究にアプローチする必要性を感じとったようだった。

講義4 細胞シート再生医療による医学革命

最後は東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長・教授、東京女子医科大学副学長の岡野光夫先生による「細胞シート再生医療による医学革命」の講義。
病気やケガなどで体の組織や臓器が機能しなくなった人を治す方法として移植医療があるが、臓器を提供するドナー不足や、移植できたとしても拒絶反応の問題などがあり、なかなかうまくいっていない。これらを解決するものとして再生医療が“夢の医療”として期待されており、それを現実のものにしようとしているのが岡野先生らの研究だ。
先生は、医学と工学を融合させて、シート状に培養した細胞組織を人体に移植する「細胞シート工学」を世界に先駆けて提唱し、その実現に向けた研究を進めている。
1つ1つバラバラの細胞を移植するのではなく、細胞と細胞、細胞と細胞外マトリックスが連結した「細胞シート」の形で移植することによって、細胞同士のコミュニケーションが可能になり、細胞が壊死することなく移植できるのだ。
それを可能にしたのが、温度によって培養皿表面の性質(親水性・疎水性)を変化させることで、細胞間をつないでいるタンパク質などをバラバラにすることなく細胞をシート状に取り出せるインテリジェント培養皿「温度応答性培養皿」だ。
現在力を入れているのが、細胞シートを積層化して、立体組織をつくること。0.1㎜以上の厚い組織を作ろうとしたら毛細血管による酸素や栄養分の供給が必要だ。そこで、たとえば6層の細胞シートを重ねた厚い組織を作る場合、いちどきに6層の厚い組織を作っても酸素と栄養分が供給されず3層の半分の細胞は死んでしまうが、毛細血管をつないで3層を乗せ、血管をつないで3層を乗せと繰り返していくことで厚い組織ができていく。
「現在、角膜、心筋、食道、歯根膜、軟骨の1~3層の細胞シートで再生治療するヒトの臨床研究を行うまでになっており、やがて肝臓や膵臓の再生も可能にすることを目指している。さらに近い将来の再生治療の拡大も見据え、全自動で細胞シートを培養・積層化する技術の開発にも取り組んでおり、動物実験で検証する段階に来ているところです」
今後さらに細胞シートの積層化・組織化が進んでいけば、10年、20年後には、心臓まるごと、肝臓まるごと、膵臓まるごとを造れるようになる。医学と工学が結集した新しいテクノロジーによって、世界で誰も治せなかったような患者さんを治せる時代が必ずやってくる、と岡野先生。高校生たちからは「異なった機能を持つ細胞シートを重ねることができるのか」「心筋細胞シートがリズムよく拍動しているのはなぜ?」など、活発な質問が次々に寄せられた。

夜の懇親会は班対抗のクイズ合戦で盛り上がる!

中身の濃い講義を聴いたあと、午後6時半からは懇親会。バイキング形式の料理を楽しみ、参加者が学校別に舞台に上がって自己紹介し、各学校の特色などを紹介しあった。
そのあと、大いに盛り上がったのが3つのチームに分かれての「班対抗クイズ合戦」。翌日の実習では3つの班に分かれて行動するが、班のメンバーのコミュニケーションを深めるために、互いに知恵を出し合ってクイズに挑戦したのだ。 クイズの問題は、「最近、iPS細胞から分化した細胞移植の臨床試験が国から認められたが、対象となる網膜の病名は何か?」「イヌやネコに風邪の症状(くしゃみ、鼻水、熱)があると飼い主も同様の症状が起こる。その一番の理由は何か?」「人間の血液中にあるヘモグロビン。グロビンとはどんな物質のこと?」「レオポンは2種のものを掛け合わせてできているがそれは何と何か?」など、難問? ばかり。
接戦となったが、1ポイント差で勝ったチームが賞品の図書カードをゲット。大興奮の余韻も冷めぬまま、参加者一同の拍手の中、1日目が終了した。

PAGE TOPへ