中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「サイエンスカフェ」レポート 高校生が最先端の生命科学に触れた一日

温めると固まり、冷やすと元に戻る高分子材料の不思議

昼食のあと、午後はいよいよ実習だ。全員、白衣に着替え、A、B、Cの3班に分かれて実習スタート。このうちC班についていくと──。

まずは温度応答性材料と微細加工技術の実習。
化学合成実験室に用意されたのは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)という温度で変化する高分子材料。このPIPAAmを溶かした水溶液が入ったサンプル瓶が各自に配られ、指導の先生が「この瓶を手の中に握って温めてごらん」と指示。すると瓶の中の溶液はみるみる白くなっていく。次に氷水につけると、透明になって元の溶液に戻っていく。
先生がもう一つ用意したのは、温度でゲルに変化する高分子溶液。これを人間の体温と同じ37℃のお湯につけるとどうなるか。白くなって、固まってしまう。「今度は氷水につけてみよう」。すると、数秒もするうちにまた透明な溶液に戻る。みんな「へーっ」と驚きの表情。
温度変化によって性質が変わるこの高分子溶液を使ってどんな応用が可能なのだろうか。まず、この中に薬や細胞を封入して体内に注入する方法がある。室温ではサラサラの液体が、体の中に入って目的の場所に達すると体温によって固まり、そこに長期間とどまって少しずつ薬を放出したり、細胞を徐々に増やして再生医療に利用することができるというわけだ。

次は、海藻由来の天然高分子を用いてゲルカプセルを作る実験。
アルギン酸は海藻などに含まれる天然高分子である。この高分子は多数のカルボキシル基を持つ糖構造をしているのが特徴だ。そこで、細胞や薬を含むアルギン酸溶液中に塩化カルシウム水溶液に滴下すると、アルギン酸塩からなるゲル層が作られ、細胞や薬を封入したゲルカプセルを作製することができる。

まず塩化カルシウムの溶液が入った瓶を用意。この瓶の中に、赤、オレンジ、紫の色素で色をつけたアルギン酸溶液をポタポタと落とすとどうなるか。瞬時にゲルになり、赤色のアルギン酸溶液なら赤色に、オレンジ色ならオレンジ色の球になる。落とす速さで球になったり、ヒモ状になったり、まるでオシャレなアクセサリーみたい?
真ん丸の美しい球を見て「何かに似ている」と思ったら、そう、実は人工イクラがこの原理で作られている。それより高校生に身近なのはスライム。これもやっぱり同じ原理で作られているんだよ、と先生が教えてくれた。

ナント、半導体製造装置で細胞をつくる

微細加工室では、微細な生体組織を模倣するための微細加工技術であるフォトリソグラフィーについて理解し、実際にフォトリソグラフィーによる微細加工を体験してみる。
多くの生体組織では、細部をよく観察してみると毛細血管網が行き渡って酸素と栄養を供給しているし、老廃物を除去する機能を備えている。また、肝臓など高機能の組織・臓器では、数種類の細胞からなるマイクロパターン構造を形成している。
そこに着目した研究グループは、生体の外でより厚い組織・高機能な組織を作製することをめざして、細胞をマイクロパターン状に接着制御できる表面基材の開発を行っていて、そのための技術として採用したのが半導体の製造技術であるフォトリソグラフィー。これは、感光性樹脂(フォトレジスト)を塗布した基材表面に、パターンが描かれたフォトマスク(原版)越しに光を照射することで、パターンを焼き付ける微細加工技術だ。
研究室レベルで使っているのが「マスクアライナー」という装置だが、問題はフォトマスクを作るとなると時間とコストがかかること。そこで目をつけたのが液晶プロジェクタ。ノートパソコンの画面を拡大投射するこの技術を使って、フォトマスクを必要とせずにパターン光の投射が可能なマクスレス露光装置を完成させた。パターン作製はパソコン画面で操作できる。

この装置を使って、実際にポジ型フォトレジストのマイクロパターンを作る体験にチャレンジ。まず、ポジ型フォトレジストを透明樹脂基板上に塗布する。一方でマスクレス露光装置に接続されたノートパソコンの画面上に表示させるパターンを作成する。マスクレス露光装置にレジストを塗布した基板をセットし、パターン光を数秒間投射。現像液に浸すと光が当たった部分だけが除去されるので、洗浄した上で、光学顕微鏡で観察。すると、細胞で世界地図が完成! さらに「何だろう?」と目を凝らすと、なんとも小さい、百数十μmぐらいの大きさの、参加した生徒の名前が浮かび上がってきた。

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