中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「サイエンスカフェ」レポート 高校生が最先端の生命科学に触れた一日

医工連携の先端研究施設で生命科学の最前線に触れる

夏休み真っ盛りの8月11日(土)午前9時半、東京・新宿区河田町にある東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設「TWIns」に、岩手、宮城、福島3県の高校生29人が引率の教師とともにやってきた。

東日本大震災で東北各県は大きな被害に見舞われ、学校教育への影響も甚大だった。しかし、そんな中でもくじけることなく勉学に励む高校生たちへの支援の意味も込めて開催されたのが今回の「サイエンスカフェ」。主催はテルモ科学技術振興財団。共催はTWIns。 「日本における医工連携の先端研究施設で、生命科学関連の講義や、少人数での実習などの実体験を通じて、再生医療や人工臓器の研究の最前線にふれると同時に、研究者とのコミュニケーションなどによって、将来の進路のヒントを提供する」のが目的である。

TWInsは東京女子医科大学の隣接地に2008年4月にオープンした医工連携の最先端研究施設で、名前の由来は、東京女子医大のTと、早稲田のW、「施設」を意味するInstitutionで「TWIns」となった。現在、ここには早大から450人、女子医大から150人の合計600人が常駐し、再生医療、ロボット手術、人工臓器開発をはじめとする数々の先端研究・複合研究が取り組まれている。

サイエンスカフェの開催内容は冒頭に示した通り。午前中に再生医療とそれを支える技術などの講義と施設見学のあと、午後からは再生医療に欠かせない細胞培養を実際にやってみたり、内視鏡操作や手術器具を使っての縫合手技の体験など、盛りだくさんのスケジュールだ。

21世紀は「細胞で治す」再生医療の時代

まず、テルモ科学技術振興財団の高橋晃理事長が「世界的にも最先端の研究に触れることで大いなる刺激を受け、将来優秀な研究者に育っていってくれるとうれしい」とあいさつ。先ごろテルモ科学技術振興財団の第1回国際賞を受賞した米国のロバート・S・ランガー博士から、若い人に期待するビデオメッセージも紹介された。

講義のトップバッターは、東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長でTWIns東京女子医科大学先端生命医科学センター長の岡野光夫先生。講義のテーマは「21世紀の細胞治療」。
岡野先生は、シート状に培養した細胞組織を人体に移植する「細胞シート工学」という再生医療の新しい分野の開拓者として知られる。

「今までは病気になったとき、体の中でいろいろな作用をする分子を注射したり、飮んだりして治療する、あるいは外科手術などで機能が低下した組織の修復や切除をしてきました。それでも治らない病気に対して20世紀に発達したのが、欠損したり悪くなったりした組織や臓器を移植する方法でした。これに対して、21世紀に入って研究が進んできたのが・・・」と岡野先生が話し始めたのが「細胞で治す」ということ。

いま注目を集めているのが、培養などによって増やした細胞を利用して、病気やケガにより低下した機能を回復させるだけでなく、欠損したりした体の構造そのものをも元の状態に戻すことを可能にする「再生医療」である。
しかし、細胞を培養して増やすといっても、バラバラな細胞をただ集めて固めただけでは組織も臓器も作れない。そこで、生命科学と工学の融合により組織、臓器作製のための新しいアプローチが始まった。それが組織工学(ティッシュエンジニアリング)だ。
ちなみに世界で初めてティッシュエンジニアリングという言葉を作ったのは、前出でメッセージをくれたランガー教授だ。

岡野先生らの研究グループは、温度応答性細胞培養皿を用いることにより、100%細胞からなる組織を体の外で作る世界初の技術、「細胞シート工学」を開発した。これは、細胞がシート状になった組織(細胞シート)を患者さんの悪くなった組織に貼り付けることにより、再生を促すものだ。これまで移植以外に治療法がなかったたくさんの病気を治せるようになると期待が高まっている。すでに、角膜、心臓、食道、歯周組織、軟骨などで細胞シートを用いた再生治療の臨床研究や治験が始まっている。
講義の中で岡野先生は、角膜の再生技術を使った実際の手術シーンをビデオで紹介。高校生たちは食い入るようにビデオに見入っていた。

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