フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

第11回 ストレスと脳 自治医科大学 医学部 生理学講座 神経脳生理学部門 尾仲達史教授インタビュー オキシトシンを中心に、ストレスと社会行動の神経機構に迫る

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尾仲達史(おなか・たつし)
1985年東京大学医学部卒業。同年自治医科大学医学部助手。1992~1994年英国ケンブリッジバブラハム研究所研究員。1995年自治医科大学医学部助教授。2,006年より現職。専門はストレスの神経機構、下垂体後葉ホルモンの中枢機能、摂食とストレスと相互作用、情動・社会行動の神経機構。

現代はストレス社会だといわれている。多くの人がストレスを抱え、働き盛りの人のうつ病なども大きな社会問題になっている。自治医科大学の尾仲教授は、ストレス反応を担う神経機構の中でも、オキシトシンを中心に、ストレスの緩和と回復力の神経メカニズムや、社会行動とストレスについて探究している。

ストレスの出力系として、視床下部に注目

───尾仲先生は、どのような思いで医学部に入り、ストレスの脳神経機構の研究を始めたのですか?

高校生のころから「心」って何だろうということに興味を持っていました。だから哲学書やフロイトの精神分析に関する本などを読むのが好きでしたね。東大の医学部に入学してからも、精神的、心理的な問題に興味を持っていて、ポリクリ(病院実習)で統合失調症の患者さんと接するなかで、精神疾患に興味を持ちました。
そこで精神科で心理テストなどをやっていたのですが、なぜ統合失調症などが起きるのかなど、その機序を明らかにすることは難しいと感じていました。当時は一部の病院でPET(陽電子断層撮影)による画像診断が始まったばかりで、その解像度が1 cm弱で細かいところは分からない。まずは動物実験ができるところで研究活動がしたいと考え、今から30年ほど前に、ストレス刺激がダイレクトに計測できる視床下部の研究をしている自治医科大学の神経脳生理学にきたわけです。

───どのように研究を進めたのですか。

ストレス因子が何で、脳のどの領域からどのように伝達されているかなど、脳神経系のメカニズムを知るための戦略にはいろいろな方法があると思いますが、あまりに複雑ですから、まずは最終的な出力部位である視床下部から出るホルモンをマーカーとして利用し、このアウトプットを出すための脳回路を探求するのが近道だろうと考えました。
そこでマウスに条件記憶刺激を与える実験を行いました。痛み刺激を与えると、二度目に同じ場所に行くとすくみ行動や脱糞行動を引き起こすのですが、そのときにマウスの血中にストレス関連ホルモンが出てきます。このホルモン放出を指標として、ホルモン放出を担っている脳の回路を追うわけです。
こうして、延髄から視床下部へのノルアドレナリン作動性ニューロンが内分泌系のストレス反応で重要なこと、そのなかでも特に、プロラクチン放出ペプチド(PrRP)を発現し、視床下部に投射しているニューロンが情動ストレスで重要な役割を担っていることを突き止めたのです。

───それから研究が発展していくわけですね。

はい。この回路が、満腹を感じたときに働く、摂食を停止させる回路と一致していることがわかってきました。つまり、ストレスと摂食で共通して、PrRPニューロンが活性化されるのです。そしてPrRPニューロンが障害を受けると、ストレスに対する反応が障害されるとともに、摂食行動に異常をきたします。
この写真の右は、PrRPが異常なマウスです。正常なマウスに比べて太っているでしょう?
つまり、PrRP異常によって、肥満や糖尿病を発症するわけで、ストレスが肥満や生活習慣病の危険因子であることが示唆されるのです。
そしてPrRP産生ニューロンが軸索をのばしている先が、オキシトシン産生ニューロンです。

PrRPが異常なマウスは太る(左:正常 右:PrRP欠損)

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