フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

第8回 脳の形成と自閉症 東北大学大学院 医学系研究科 発生発達神経科学分野  大隅典子教授インタビュー 脳科学から「自閉症とは何か」を解き明かしたい

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大隅典子(おおすみ・のりこ)
1988年東京医科歯科大学大学院歯学研究科を修了。顔がどのようにできるか、顔の発生に興味を持ち、やがて脳の発生発達や神経発生の分子機構をテーマに研究を進める。96年国立精神・神経センター神経研究所室長を経て、98年東北大学大学院医学系研究科・器官構築学教授に就任。専門は発生生物学、分子神経科学。2005年より科学技術振興機構の戦略的創造研究(CREST)の代表者として「ニューロン新生の分子基盤と精神機能への影響の解明」に従事。2006年より東北大学総長特別補佐(男女共同参画担当)、2010年より東北大学大学院医学系研究科附属創生応用医学研究センター長、脳神経科学コアセンター長。歯学博士。著書に「神経堤細胞」、「脳から見た自閉症」(講談社)など。
>研究室ホームページ
>大隅典子の仙台通信

東北大学に籍を置く大隅先生は、東日本大震災を大学の研究室で体験した。多くの被災者との出会いなどを通じて、「どんな研究によって社会貢献をしていくか」と自問自答。そして、「脳の発生発達に関わる遺伝子の研究と自閉症」をテーマに、脳科学から自閉症にアプローチし、研究成果を広く社会に発信している。脳科学による自閉症研究の今と、自閉症の人にどう向き合えばよいのかなどを伺った。

東日本大震災をきっかけに自閉症に軸足を置いた研究を決意

───先生が自閉症の研究を始めたのはどんな経緯からですか。

高校時代には心理学に興味を持っていました。「心」は人間の根源的な問題であり、なんとかそれを理解したいという気持ちが強かったのだと思います。大学の歯学部に進学し、大学院で発生生物学の基礎を勉強しましたが、目鼻と脳の形成に関係のある「パックス6」という遺伝子に出会ったことから、脳の発生発達への関心が高くなりました。

注:大隅先生の研究者への道については、当サイトの「この人に聞く、生命に関わる仕事っておもしろいですか?第4回」を参照

パックス6の働きが悪いラットと野生型のラットとを比べると、社会性が乏しいとか、本来は赤ちゃんラット特有の音声コミュニケーションである「ピーピー」という鳴き声(実際には超音波音域)を出さないとか、いろいろな違いが見えてきました。
こうしたラットの状態を研究するにあたって、最初は統合失調症が適しているのではないかと考えたのですが、次第に自閉症スペクトラムの方がより適していると考えるようになりました。
そして、決定打となったのは東日本大震災でした。

───東日本大震災が大きかったというのはどういうことでしょう?

2011年3月に起こった東日本大震災は私にとっても大きなショックでした。幸いキャンパス内での人的被害はありませんでしたが、実家や親戚が被災した方は周囲にもたくさんいました。多数の報道もなされる中で、これからの人生をどのような形で社会貢献していったらいいかを考えました。私が所属する東北大学は、被災地に最も近い総合大学として、震災直後から病院を中心に被災者の医療に携わりましたが、それだけではなく、いくつかの復興プロジェクトが立ち上げられました。
その中の一つが医学系研究科や大学病院が関わった「東北メディカル・メガバンク事業」です。これは地域の15万人のみなさんに協力いただいて、健康調査を実施するとともにそれぞれのゲノム情報を登録し追跡調査を行うことで、どのような遺伝子多型が病気リスクとなるのかを明らかにしようとするものです。自閉症に関しても研究対象となっていて、私自身もこの機会に、自閉症の病態基盤の解明にも注力していこうと考えたわけです。

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