フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

第3回 運動と脳 国立研究開発法人 情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター脳情報通信融合研究室 内藤栄一 研究マネージャー インタビュー アスリートの経験を生かし、脳と運動のメカニズムに迫る

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内藤栄一(ないとう・えいいち)
1991年京都大学教育学部教育心理学科卒。96年京都大学大学院人間・環境学研究科修了、 博士号取得。同年岐阜大学医学部助手。97年スウェーデン、カロリンスカ研究所に留学。99年京都大学総合人間学部助手。2000~2001年スウェーデン・カロリンスカ研究所文部科学省若手在外研究員。03~06年京都大学大学院人間・環境学研究科助手。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報研究所研究員、情報通信研究機構未来ICT研究センターバイオICTグループ研究マネージャーなどを経て、2011年より現職。大阪大学大学院医学系研究科、および同大学院生命機能研究科招聘教授も務める。身体運動を制御する脳のしくみの研究を通じて、スポーツやリハビリテーションなどへの応用を展望している。

高校時代、サッカーの県代表選手に選ばれたこともある内藤栄一先生は、運動に関係する脳のメカニズムを知りたいと研究生活に入った。そして、「身体図式」と脳の運動野や大脳のネットワークを研究し、さまざまな成果を上げている。今後は、ゴールデンエイジの子どもの運動機能と脳のプログラムの発達についても研究を進め、将来的にアスリートの育成にも貢献したいと語る内藤先生は、理論と応用の両面を追求する「研究アスリート」なのだ。

身体運動を制御する脳のメカニズムが知りたい

───内藤先生が運動と脳について研究しようと考えたのはなぜですか。

長野県の上田高校でサッカーのセンターフォワードをやっていて、県代表にも選ばれました。残念ながら北信越予選で新潟県に負けたため国体には出場できませんでした。
この予選で、その後日本代表にまでなった選手に目の前ですごいフリーキックを決められたり、県代表チームとしてブラジルのユースチームと戦って、彼らのすごさに圧倒されたりして、自分よりはるかに力のある選手がいることに気づかされ、選手としてプレーすることを断念したんです。
その代わり、人の脳がどのようにして無数にある筋肉や骨格の動きをコントロールするのかなど、運動や身体の動きと脳の関係について興味がわくようになりました。

───それで大学は、運動と脳が研究できる学科に進んだのですか。

サッカー選手としては限界があると感じて、それならメンタルトレーニングとかコーチングの分野について勉強したいと思ったのです。けれども当時はこの分野の研究はまだ進んでいなかったため、一般的な心理学に関係した勉強をしようと考えました。京大の教育心理学に進んだのは、河合隼雄という高名な先生がおられたことが大きいですね。
心理学には大雑把に言って、心理・行動面の障害の治療や援助をめざす「臨床心理学」と、感覚、知覚、記憶、学習などについて実験的な手法でアプローチする「実験心理学」とがあります。大学3年生になったとき、臨床心理学ではなく、人の心理のメカニズムがどうなっているのかを知りたいと思い、実験心理学の道を選びました。実験心理学の研究対象としてはイメージトレーニングなども含まれていますから、次第に最初に考えていたような「運動と脳」についての勉強に近づいていきました。

───運動と脳についての研究は、当時はどれくらい進んでいたのですか。

本編でもお話ししましたが、脳の中の一次運動野には、ホムンクルスのよう に身体の部位の運動に対応した脳の領域があることが知られています。1980年にはのちに私が留学することになる当時スウェーデンのカロリンスカ研究所にいたローランド博士が「脳の中には実際に運動しなくても、想像するだけで運動に関係する計画を立てたりする場所がある」と発表し、運動と脳についての研究が本格的に始まっていました。
脳が自分の手足の位置を知っていることは、それらを制御する上で非常に重要なことです。それがなければ正確な身体運動の制御はできないからです。手や足がどこにあるのか、その位置を思い描いたり、手や足をどう動かすかという脳の中のイメージ、すなわち「身体図式(ボディスキーマ)」については、大学4年生の頃から興味を持っていました。
大学院に進んで本格的に身体図式についての研究を進めたいと思いましたが、当時、脳の活動を画像で見ることのできるMRI(磁気共鳴画像装置)などの大型装置は、心理学の研究室にはなく医学部にしかありませんでした。そこで、医学部の先生方にもお世話になりながら、脳の運動制御に関する勉強をしていましたが、その中で運動イメージや身体図式に関する脳内表現はまだ不明な点が多いことを知りました。

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