フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

第22回 がん化しないiPS細胞をつくる 慶應義塾大学医学部循環器内科教授 福田 恵一 教授 インタビュー ヒトiPS細胞から心筋細胞を誘導し、臨床応用をめざす

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福田恵一(ふくだ・けいいち)
1976年 千葉県立東葛飾高等学校卒業。1983年 慶應義塾大学医学部卒業。1987年 慶應義塾大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了。1987年 慶應義塾大学助手。1991年 国立がんセンター研究所に国内留学。1992年 米国ハーバード大学ベスイスラエル病院分子医学教室留学。1994年 米国ミシガン大学心血管研究センター留学。1995年 慶應義塾大学医学部循環器内科助手。1999年 慶應義塾大学医学部講師。2005年 慶應義塾大学医学部再生医学教授。2010年より現職。

iPS細胞をできるだけ早く再生医療に応用しようと、世界の医師・研究者が挑戦を続けている。しかし、iPS細胞の臨床治療に立ちはだかっているのが、がん化の可能性である。慶應義塾大学の福田恵一先生は、独自のアプローチによってiPS細胞を作製すると同時に、iPS細胞から心筋細胞を分化誘導するにあたっても、純正な心筋細胞を効率よく取り出すことに成功、実際の臨床応用を見据えた研究で先陣を切っている。

患者さんの負担のないiPS細胞づくりにチャレンジ

───福田先生ががんにならないiPS細胞づくりに挑戦した理由からお聞かせください。

私の専門分野である心臓病の場合、重症な心不全は、現在の医療では心臓移植以外に治療手段がないのです。けれども心臓移植にしても、わが国では心臓を提供してくれるドナーの数が少ないこと、また他人の心臓なので移植した心臓への拒絶反応が起きることなど多くの問題があります。このため臨床医の立場からすると、心臓移植に代わる治療法をできるだけ早く開発しなければならないと考えていました。
もし、iPS細胞を使って心筋細胞をつくり、それを移植して治療ができれば、難治性の心臓病の患者さんを救うことが可能でしょう。でも、これまでのiPS細胞のつくり方では、実際の医療として使うためには課題もあって、それをクリアしていくことが重要だと考えたのです。

───そのひとつが、皮膚細胞ではなく血液を使うこと。患者さんにとって負担の少ない方法といえますね。

ええ、臨床医で患者さんに接していると、これからの医療は低侵襲でなければならないと痛切に感じていました。皮膚細胞を採取するには、「パンチバイオプシー」といって、パチンと皮膚を挟み取るわけですが、1~2針ほど傷を縫合する必要があり、患者さんに苦痛を与えてしまうのです。子どもさんはもとより、女性の場合、皮膚を傷つけるのを嫌がる人もいらっしゃいます。研究段階で協力していただくには、こうしたことに十二分に配慮しなくてはなりません。血液の場合なら、わずか0.1mlあればいいので、採血のついでに手軽に細胞を採取できるというメリットがあります。
また、一晩常温で放置されたものでも使えますし、冷凍保存した血液からでもつくれるため、将来的には海外からでも飛行機で運んでくることができます。どこの国のどんな人からでもiPS細胞をつくることができるのです。

───血液の中でもT細胞を使うのは、どんな理由からですか?

T細胞は血球細胞の中でも抹消血から簡便に得られ、ある種の物質を入れることで簡単に増殖できます。興味深いことにセンダイウイルスは活性化していないT細胞にはほとんど感染しないのに、活性化したT細胞にはすぐに感染するという特長をもっています。つまり、非常に効率よくiPS細胞をつくることができる点がポイントですね。

T細胞に対するセンダイウイルスベクターの感染効率
活性化したT細胞には非常に高い感染効率を示す

───iPS細胞をつくる上で、先生方が開発した方法と従来の方法の違いを簡単に教えてください。

「森の教室」の本編でもお話ししましたが、大きく次の4つが挙げられます。
(1)いまお話ししたように少量の血液で細胞を確保できるので、患者さんの痛みが最小限で済む、(2)iPS細胞をつくるために導入する遺伝子(初期化因子)が、導入先の細胞の核に入らないので、導入先の遺伝子を破壊することがなく、がん化の可能性が低い、(3)センダイウイルスを使うことによって、導入した遺伝子の再活性化がなく、がん化の心配がない、(4)短期間で効率よくiPS細胞がつくれる。
このほか、誰もが失敗なくiPS細胞がつくれ、標準化しやすい点も臨床応用にあたっては重要だといえます。

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