フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

第21回 細胞シートと再生医療の未来 東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長 岡野光夫教授インタビュー 細胞シートでたくさんの患者さんを治したい

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岡野 光夫(おかの・てるお)
1974年 早稲田大学理工学部応用化学科卒業、1979年 同大学大学院 高分子化学博士課程 修了(工学博士) 、東京女子医科大学助手、講師、UTAH大学助教授、東京女子医科大学助教授を経て、1994年 東京女子医科大学 教授、UTAH大学教授、1999年 東京女子医科大学 医用工学研究施設 施設長、2001年 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 所長、2012年同大学副学長。専門は、バイオマテリアル、人工臓器、ドラックデリバリーシステム、再生医工学等。細胞シート工学を提唱し、バイオ角膜上皮の臨床をスタートさせ、心筋、血管、肝臓、膀胱などの再生医療をめざしている。2009年紫綬褒章受章。

体の中の幹細胞やiPS細胞を使って細胞シートをつくり、それを患部に移植して治療する、まさに新しい発想の医療を創造、推進している東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長の岡野光夫教授。最先端の医学研究者でありながら、出身は工学部である。研究者としてどんなプロセスを歩んだのか、細胞シートの今後の展開、若い人たちへのメッセージなどをインタビュー。

高分子化学の研究からスタート

───岡野先生は医学部ではなく、工学部を卒業されていますね。

私が専門に勉強していたのは高分子化学です。高分子をやろうと思ったきっかけは、大学4年生の時、生きた鳥を中に入れた鳥かごをシリコンの膜で包んで水中に入れる実験のビデオを見た時でした。当然、酸素がなくなって、鳥はかごの中で死んでしまうだろうと思っていたのに、鳥は何週間も生き続けていた。シリコン膜は高分子化合物で、酸素を透過する膜だったわけですね。「これはすごい、高分子を本格的に研究してみよう」と思ったのです。

その頃、繊維産業が不況に陥って、繊維メーカーは高分子を使って人工腎臓などの人工臓器の研究をしている時代でした。大学では医療機器や人工心臓などに利用されるバイオマテリアルの研究室に所属して、卒業研究ではバイオマテリアルの一種である生体適合性のハイドロゲルを、大学院ではさらに進んで親水性と疎水性の2つの性質をもつ分子をつなぎその表面にコーティングすると、血栓ができないといった研究を続けていきました。

───医療関係の研究を始められたのは、どんなきっかけからでしょう。

博士課程の大学院生だった頃、東京女子医科大学に人工心臓を研究している医用工学研究施設というところがあって、櫻井靖久先生(故人)が人工臓器やドラッグデリバリーシステム(DDS)などの研究をなさっていたんですね。私は非常に興味をもったのでそこに出向させてもらって、櫻井先生の下で、現在東京大学教授になっている片岡一則先生などと一緒に研究する機会を持てたのです。

当時、注射針がガラスからプラスチック製に変わるなど医療で使う材料が大きく変わっていく時代でした。人工臓器などにも人工材料が用いられて、そうした人工材料が人間の体の中に埋め込まれていくわけです。これまで人間はそんな経験をしたことがありませんから、人工材料が埋め込まれ、生体と人工材料が出会った時、どんな反応が起きるのかを系統的に研究する学問領域が必要になる、バイオマテリアルの新しい研究領域がどんどん広がっていくと考えました。

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