フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第9回 ホルモン研究のこれから 埼玉大学大学院理工学研究科 坂井 貴文教授インタビュー 下垂体と消化管ホルモンの関係を研究し続けて

第9回 ホルモン研究のこれから 埼玉大学大学院理工学研究科 坂井 貴文教授インタビュー 下垂体と消化管ホルモンの関係を研究し続けて

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坂井 貴文(さかい・たかふみ)
1977年群馬大学教育学部卒業、78年群馬大学教育専攻科修了、78年埼玉県公立高校教諭に。88~91年まで群馬大学内分泌研究所文部技官、91年同研究所助手、95年埼玉大学理学部講師に。2003年 同学部教授。2009年より埼玉大学教授 同大学院理工学研究科 生命科学部門 生体制御学領域 細胞制御学領域教授。現在、同大学総合研究機構副機構長、理学部副学部長を兼務。医学博士。

私たちの生命を維持していく上でホルモンはとても重要な働きをしている。そして、ホルモン研究は、新たな見解や発見が数多く発表されるなど、いま注目の分野のひとつ。坂井先生にホルモン研究に携わるようになったきっかけや、研究の醍醐味、研究者に求められる力などについてうかがった。

高校の物理の先生から生物研究者の道に

───坂井先生がホルモンを研究するようになったのはどうしてですか。

大学の教育学部を卒業して、最初は高校で物理を教えていたんです。でも、どうしても生命科学・生物学の研究をしたいと、群馬大学の研究生になりました。そのときの教室が下垂体の研究をやっていて、電子顕微鏡を使ってホルモン産生細胞を調べたりしていたんですね。
群馬県はむかしは、海なし県ということもあり、食卓に海草類が不足気味でヨードが足りなかったため、甲状腺ホルモンに関する病気が多い県だったと聞いています。そのこともあり、群馬大学ではホルモンの研究が盛んで、1960年代前半には「内分泌研究所」(現・生体調節研究所)が設立されていたほどなんです。
私は下垂体を中心とした研究をしていこうと思っていたんですが、消化管ホルモンの研究で知られる伊藤漸先生の助手にしていただいたのをきっかけにして、下垂体の研究を中断して消化管の研究に移っていったんです。

───そこでは具体的にどんな研究をなさったんですか。

伊藤先生は、筋肉の収縮活動を記録するセンサーである小型の「フォーストランスデューサー」を自ら開発されて、それをイヌの消化管に縫い付け、消化管がどんな収縮活動をするかを研究されていました。そうしたところ、消化管では、食べ物が入っている時よりも空腹時に収縮活動が激しくなることを発見されたんです。
伊藤先生は消化管の研究を専門にしておられたのですが、空腹時における消化管の収縮運動が、消化管ホルモンのモチリンと関係があることを突き止められたんです。

───モチリンは「森の教室」でも出てきましたが、お腹がすいたときにお腹をグーって鳴らすホルモンですね。

ええ、そうです。モチリンは十二指腸から分泌され、胃腸を収縮させる働きのあるホルモンで、とくに空腹時に胃や腸に働きかけるものです。
私は伊藤先生の研究をアシストしながら研究活動を続けていたのですが、やがて埼玉大学の講師になったのを機会に、消化管の研究からまた下垂体の研究に戻ろうと考えたんです。
ところが、ちょうどそのころ、これも「森の教室」でお話ししましたが、食欲を増進する消化管ホルモンである「グレリン」が見つかったのです。グレリンは血流と神経を介して下垂体に作用して成長ホルモンの分泌を促しますが、ここで消化管研究と下垂体研究の2つがつながったわけなんです。しかも、モチリンとグレリンの遺伝子構造も似ていて、ファミリーを形成しているんですね。どうもこれは消化管ホルモンの研究からは逃げられない運命にあると感じたんですよ(笑)。

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